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クライアントアラート

日本の保険会社による米国の保険会社への投資: トレンドと留意点

June 19, 2024

By Chad Vance, Kirk Lipsey[1][2] & Insurance M&A Group
 

[1] 翻訳はポールヘイスティングス法律事務所の東京オフィスに所属する新井敏之とべロスルドヴァオリガによる。

[2] Chad Vance及びKirk Lipseyの両名はポールヘイスティングス法律事務所のシカゴ、ニューヨーク・オフィスに所属する米国法弁護士である。

近年、日本の保険会社の米国保険業界への投資意欲は継続的に高まっている。この背景には、次のような要因がある。

  • 国内市場の縮小:高齢化と少子化に伴い、日本の国内市場における保険商品の潜在的な顧客が減少しており、結果として、日本の保険会社の保険料収入の伸びが頭打ちになっていること
  • 長寿化によるリスク:人口の高齢化に伴い、保険会社は保険契約者が長生きし、給付金を支払わなければならない期間が長期化するというリスクに対応しなければならなくなること
  • 日本の低金利:日本では低金利政策が続いており、それに対応するために日本の保険会社は米国の保険市場を含め、海外のより高い利回りの投資機会を求めていること
  • ヘッジ・コストの上昇:ヘッジ・コストの増加により、日本の保険会社の伝統的な外貨建て債務への投資は、もはや十分な利回りを生み出さなくなっていること
  • リスク分散:米国の保険会社に投資することで、日本の保険会社はポートフォリオを多様化し、国内リスクを減らすことができること
  • 戦略的提携・技術移転:米国の保険会社に投資すること(その形態には様々なものがある)で、日本企業は新たな市場、商品、流通プラットフォーム、技術にアクセスすることができ、戦略的提携や知識交換を促進することができること
  • 好ましい規制環境:米国の保険業規制は複雑ではあるものの、一般的に他の多くの市場よりも安定的なものであり、予測可能性を有するものあると考えられており、投資家にある程度の規制的な確実性を提供していること

日本から米国への投資する際の留意点

米国の保険会社への投資を検討している日本の保険会社は、次のようないくつかの重要な検討事項に留意する必要があるだろう。

  • 規制の枠組み:米国の保険業規制は複雑で、州によっても異なる。保険会社の本社は全米に散在しており、一つの州に集中しているわけではない。日本の投資家は、支配権移転の申請、支払能力・資本基準、投資制限など、適用される州および連邦の規制を理解し、遵守しなければならない。
  • 取引のストラクチャー:米国の保険会社への投資は、伝統的な株式取引、マイノリティ投資、再保険、その他の戦略的提携など、それぞれ遵守すべきポイントが異なってくる様々なストラクチャーを通じて行うことになる。
  • 契約上の問題点:すべての取引に固有の争点や力関係が存在するように、米国の保険市場における投資には、すぐれて業界特有の核心的な問題点や反復的・継続的に論点となる事項の交渉が必須であり、これらの交渉には経験豊富な法律事務所の関与が必要である。
  • 文化の違い:ビジネス慣行、コミュニケーション・スタイル、意思決定プロセスにおける文化の違いは、現在においても米国でのディールメーキングに不慣れな日本の投資家にとって課題となる可能性がある。多くの案件は競売プロセスを経て取引が開始されるため、厳しい競争環境で適時かつ適切に対応する能力が求められてくる。投資を成功させるためには、きわめて迅速で効果的な異文化コミュニケーションと理解が不可欠である。
  • デュー・デリジェンス:投資対象となる米国保険会社の財務状況の健全性、業務効率、規制遵守を評価するためには、徹底して業界に特化したデュー・デリジェンスが不可欠であり、このようなデュー・デリジェンスを効果的に行うためには専門家の業界知識と経験が必要不可欠となる。
  • 税制上の影響:日本の投資家は、米国の保険会社に投資をする場合、日米両国の税制上の影響を検討することが不可欠である。

日本からの米国の保険会社への近時の投資事例

日本の保険会社の米国市場に対する関心の高まりを示す近時の取引としては、次のようなものが代表的なものとして挙げられる。

  • 日本の保険会社が米国大手保険会社の子会社へ出資:2024年5月、日本の保険会社は米国大手保険会社の子会社の20%を約38億ドル(5900億円余)で取得することに合意した。
  • 日本の保険会社、米国大手投資ファンド及び米国大手保険会社の戦略的提携:2023年、日本の保険会社は米国大手投資ファンド及び大手保険会社と戦略的提携契約を結び、米国大手保険会社がスポンサーとなる再保険共同投資ビークルに出資した。
  • 日本の保険会社のグループホールディング会社への出資:2023年、日本の保険会社は米国を中心にグローバルに保険サービスを展開する会社のホールディング会社に約20億ドルの出資を行った。 

日本の人口動態の課題と米国保険市場の魅力が相まって、日本の保険会社が米国で継続的な投資活動を行う傾向が高まっていることは歴然としている。この傾向が続く中、日本の投資家として、長期的視点で成功をおさめるためには、米国市場への投資する際に留意すべき考慮事項やリスクを幅広く理解することが重要となってくる。

ポールヘイスティングス法律事務所の保険M&Aグループは、日本時間の2024年7月11日(木)9:00AM-10:00AMに上記事項をカバーしたウェビナーを開催する予定です。是非、奮ってご参加ください。(登録はこちらからREGISTER HERE)

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